
これは、地域で真面目に仕事をしている中小零細工事店にとって、本当に朗報だと思います。
近年、大手企業も「職人直営」という価値に注目し始めています。
一見すると、
「大手まで職人直営に入ってきたら、小さな工事店は厳しくなるのではないか」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、私は逆だと見ています。
大手が「職人直営」という言葉や価値を打ち出すことで、これまで低く見られがちだった職人直営の世界観そのものが、社会的に引き上げられていくからです。
「職人直営」は、すでに選ばれ始めている
今でもすでに、お客様の中には、
「営業会社ではなく、現場を知っている人に相談したい」
「できれば職人さんに直接お願いしたい」
「地域で顔が見える会社に任せたい」
と考える方が増えています。
これは、単なる価格比較ではありません。
お客様は少しずつ、工事の本質を見始めています。
誰が現場を見てくれるのか。
誰が責任を持ってくれるのか。
誰がその地域で長く仕事をしているのか。
困ったときに、誰に相談できるのか。
こうした部分に価値を感じるお客様が増えているのです。
つまり、時代はすでに変わり始めています。
そして、大手が「職人直営」に参入してくることで、その流れはさらに強まる可能性があります。
大手参入は、脅威ではなく追い風になる
大手企業が職人直営型のサービスを展開する場合、当然ながら一定以上の価格帯で提供されることになります。
すると、お客様の中で、
「職人直営=安い」
という認識から、
「職人直営=専門性が高い」
「職人直営=安心できる」
「職人直営=価値がある」
という認識へ変わっていきます。
これは、地域の中小零細工事店にとって大きな追い風です。
これまで、職人直営店は、
「小さい会社だから安くしてくれるだろう」
「直接頼むのだから安いはずだ」
と見られがちでした。
しかし、本来、職人直営とは安売りの形ではありません。
現場を知る者が、直接お客様と向き合い、責任を持って工事を提供する。
このこと自体に、大きな価値があります。
大手の参入によって、その価値が社会的に見直されていくなら、地域の職人直営店も、適正価格で選ばれやすくなっていくはずです。
人材面でも「職人」の価値が見直される
もう一つ大きいのは、人材面です。
これまで若い世代の中には、「職人」という言葉に対して、
きつい。
古い。
下請け。
将来が見えない。
というイメージを持っていた人も少なくありません。
しかし、これからは少しずつ変わっていくと思います。
「自分は職人です」
「自分は技能者です」
「自分は技術者として生きています」
そう言える人が増えていく。
大手が職人や技能者の価値を前面に出すことで、世の中全体の見方も変わっていきます。
もちろん、すぐに中小零細工事店へ優秀な人材が流れ込むわけではありません。
しかし、職人・技能者・技術者という生き方が社会的に見直されれば、その流れの中で、地域の工事店にも必ず良い影響が出てきます。
すでに、各地の職人社長との面談の中でも、その兆候は少しずつ起き始めています。
ただし、昔ながらの職人直営のままではいけない
ここで大切なのは、昔ながらの職人直営を、そのまま肯定することではありません。
「昔からこうやってきた」
「うちは職人だから、それでいい」
「現場さえきちんとやっていれば、分かる人には分かる」
この考え方だけでは、これからの時代に選ばれ続けることは難しくなります。
これから必要なのは、
新しい職人直営
です。
職人の誇りを持ちながら、経営を学ぶ。
現場力を大切にしながら、仕組みをつくる。
人柄と腕だけに頼らず、品質・数字・採用・育成を整える。
地域密着でありながら、時代に合った発信を行う。
このような、新しい職人直営の形を創造していく必要があります。
そこには、多少の痛みもあります。
今まで感覚でやってきたことを、言語化しなければいけません。
今まで社長一人で判断してきたことを、組織で共有しなければいけません。
今まで「どんぶり」で済ませていた数字を、現場ごとに見なければいけません。
今まで背中で教えていたことを、マニュアルや教育の形にしなければいけません。
これは、簡単なことではありません。
しかし、この努力をした工事店から、次の時代に選ばれていくのだと思います。
新しい職人直営に必要な5つの経営改革
では、地域の職人直営店がこれから取り組むべきことは何か。
大きく分けると、次の5つです。
1. 業務マニュアルによる施工品質の管理と部下育成
まず必要なのは、業務マニュアルです。
職人直営店の強みは、社長や親方の経験、判断力、現場力にあります。
しかし、その強みが社長一人にしかない状態では、会社として成長できません。
施工品質を安定させるためには、
現場調査の流れ。
見積作成の基準。
近隣挨拶の方法。
施工中の確認事項。
完工検査の基準。
お客様への報告方法。
こうしたものを、できるだけ見える形にしていく必要があります。
業務マニュアルとは、職人を縛るものではありません。
会社の大切な仕事の型を、次の世代に伝えるための道具です。
社長の頭の中にある判断基準を、社員と共有する。
それが、品質管理であり、人材育成でもあります。
2. 全現場の原価管理を行い、標準原価を設計する
次に大切なのは、原価管理です。
中小零細工事店の経営では、
「忙しいのにお金が残らない」
「売上はあるのに利益が見えない」
「どの工事が儲かっているのか分からない」
という問題がよく起きます。
これは、現場ごとの原価が見えていないことが原因です。
材料費。
外注費。
人工。
交通費。
追加対応。
手直し。
これらを現場ごとに把握していくことで、自社にとって利益が残る工事、残りにくい工事が見えてきます。
大切なのは、他社の相場に合わせることではありません。
自社の標準原価を、自社で設計することです。
うちの会社では、この工事に何日かかるのか。
この仕様なら、どのくらいの材料が必要なのか。
この地域で、この品質を守るには、いくら必要なのか。
適正利益を残すには、いくらで受注すべきなのか。
これを把握して初めて、適正価格で選ばれる経営に近づいていきます。
3. 少人数でも経営会議を行う
三つ目は、経営会議です。
中小零細工事店では、社員数が少ないため、
「うちは会議なんて必要ない」
「現場で話しているから大丈夫」
と思われがちです。
しかし、少人数だからこそ、経営会議が必要です。
なぜなら、会社は「単独オオカミの群れ」ではなく、「経営を行う組織」にならなければいけないからです。
社長が考えていること。
今後の方針。
今月の売上と利益。
現場で起きている問題。
お客様からの声。
採用や育成の課題。
今後強化したいサービス。
こうしたことを、定期的に話し合うだけでも、会社の空気は変わります。
経営会議とは、難しい資料を作る場ではありません。
会社の未来を、みんなで見る場です。
社長一人が孤独に考える会社から、社員も会社の未来に参加する会社へ。
その転換が、新しい職人直営には必要です。
4. 20歳年下の後継者世代を採用し、育て続ける
四つ目は、後継者世代の採用と育成です。
今、多くの工事店が職人不足に悩んでいます。
しかし、本当に考えなければならないのは、目先の人手不足だけではありません。
10年後、誰が現場を守るのか。
15年後、誰が会社を支えるのか。
20年後、誰が地域のお客様を引き継ぐのか。
ここを考える必要があります。
特に、40代・50代の職人社長であれば、20歳年下の世代を意識して採用し、育てていくことが大切です。
もちろん、若い人を採用すればすぐに戦力になるわけではありません。
時間もかかります。
手間もかかります。
時には、思うように育たないこともあります。
それでも、次世代を育てることから逃げてしまえば、会社の未来は先細りしていきます。
職人直営の本当の価値は、社長一代で終わることではありません。
地域に必要とされる技術と精神を、次の世代へつないでいくことにあります。
5. 社長が率先垂範型のリーダーシップを取る
最後に必要なのは、社長自身の姿勢です。
未来は誰にも分かりません。
大手がどう動くか。
市場がどう変わるか。
材料価格がどうなるか。
人材が集まるか。
お客様の価値観がどう変わるか。
すべてを正確に予測することはできません。
だからこそ、社長が自分の人生と仕事に自信を持つことが大切です。
その自信とは、威張ることではありません。
自分の仕事に誇りを持つこと。
自分の会社の存在意義を信じること。
お客様に必要とされる会社をつくると決めること。
社員や若い世代に、背中を見せること。
これが、率先垂範型のリーダーシップです。
これからの中小零細工事店に必要なのは、上から命令するだけのリーダーではありません。
社長自身が学び、変わり、現場を大切にしながら、未来に向かって先に一歩を踏み出す。
その姿に、人はついてくるのだと思います。
世の中が変わるには15年から20年かかる
世の中の常識が変わるには、15年から20年の時間がかかります。
今すぐ、すべてが変わるわけではありません。
しかし、変化はすでに始まっています。
5年先には、各地に明確なリーダー的工事店が現れてくるでしょう。
10年先には、中小零細工事店の経営常識が変わり始めるでしょう。
20年先には、「新しい職人直営」が、地域工事店のスタンダードになっているかもしれません。
だからこそ、今から準備することが大切です。
目先で儲かるか。
今すぐ回せるか。
楽か大変か。
もちろん、これらも大切です。
日々の資金繰りも大事です。
現場の段取りも大事です。
今月の売上も大事です。
しかし、それだけで経営を判断していると、時代の大きな流れを見失ってしまいます。
本当に努力が報われるのは、長期的なトレンドを捉えた時です。
時代の先を見て、今から準備する。
今はまだ面倒に見えることに、少しずつ取り組む。
誰もやっていないうちから、自社の仕組みを整える。
若い世代を育てる。
適正価格で選ばれる会社に変わる。
その努力が、5年後、10年後、20年後に大きな差になります。
未来は、上から与えられるものではない
未来は、上から与えられるものではありません。
国が決めてくれるものでもありません。
大手企業がつくってくれるものでもありません。
業界団体が勝手に整えてくれるものでもありません。
未来は、新しい眼で現実を見つめ、新しい努力を積み重ねた人たちによって開かれていくものです。
大手が職人直営に参入する時代。
それは、中小零細工事店の終わりではありません。
むしろ、真面目に現場を守り、地域のお客様に向き合い、経営を学び続ける職人社長にとっては、大きな追い風です。
ただし、その追い風に乗るためには、自社も変わらなければいけません。
昔ながらの職人直営から、新しい職人直営へ。
勘と経験だけの経営から、仕組みと数字を持った経営へ。
社長一人の会社から、次世代を育てる組織へ。
安売りで選ばれる会社から、価値で選ばれる会社へ。
この転換が、これからの工事店経営には必要です。
困難を乗り越えるところに、職人経営のロマンがある
変わることは、簡単ではありません。
マニュアルをつくるのも大変です。
原価管理を始めるのも面倒です。
経営会議を続けるのも慣れるまでは難しいです。
若い人を育てるには時間がかかります。
社長自身が変わることも、決して楽ではありません。
しかし、その困難を乗り越えるところに、職人経営のロマンがあります。
地域のお客様に必要とされる会社をつくる。
職人が誇りを持って働ける会社をつくる。
若い世代が未来を感じられる会社をつくる。
適正価格で選ばれ、利益を残し、長く続く会社をつくる。
そのために、今こそ新しい職人直営を創造していく。
大手の参入は、脅威ではありません。
本気で変わろうとする職人社長にとっては、時代が背中を押してくれる追い風です。
これからは、地域の職人直営店が、もう一度見直される時代です。
そして、その時代に選ばれるのは、現場を大切にしながら、経営を学び、未来に向かって変わり続ける工事店です。
職人直営の時代は、これから本格的に始まります。
まとめ
大手が「職人直営」に参入してくることは、中小零細工事店にとって必ずしも脅威ではありません。
むしろ、職人直営の価値が社会的に見直されるきっかけになります。
ただし、これから選ばれるためには、昔ながらの職人直営のままではなく、新しい職人直営へと進化していく必要があります。
そのために必要なのは、以下の5つです。
- 業務マニュアルによる施工品質の管理と部下育成
- 全現場の原価管理と標準原価の設計
- 少人数でも経営会議を行うこと
- 20歳年下の後継者世代を採用し、育て続けること
- 社長自身が率先垂範型のリーダーシップを取ること
この5つに取り組むことで、地域の職人直営店は、これからの時代にもっと選ばれる存在になっていくはずです。
日本建築塗装職人の会より
日本建築塗装職人の会では、地域に根ざした塗装店・工事店が、相見積もり競争や価格競争に巻き込まれず、「選ばれる工事店」になるための経営支援を行っています。
職人の誇りを守りながら、施工品質、集客、営業、採用、育成、数字管理を整え、次世代に残る工事店経営を目指す。
そのような職人社長の学びの場として、塗装店経営アカデミーを運営しています。
これからの時代、自社をどのように変えていけばよいのか。
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