「また塗料が値上がりした」
「材料代ばかり高くなって、利益が残らない」
「これ以上、お客様に高い金額を出したら契約が取れない」
最近、このような声を塗装店の経営者から聞くことが増えました。
実際に、塗料だけでなく、シーリング材、養生材、刷毛、ローラー、燃料、車両費、人件費など、塗装工事に必要な多くの費用が上がっています。
日本銀行が公表した2026年6月の国内企業物価指数も、前年同月比で上昇しています。また、経済産業省の調査でも、原材料価格やエネルギー価格の高騰、労働力不足が、多くの事業者に影響を与えていることが示されています。つまり、塗装店だけが苦しいわけではなく、社会全体の仕入れ構造が変化しているのです。(企業物価指数 2026年6月度速報)
だからこそ、これからの塗装店経営に必要なのは、
「いつになったら材料価格が元に戻るのか」
と待つことではありません。
材料が高い時代でも利益を残せる会社へ、経営の仕組みを変えることです。
塗料・材料の高騰は苦しい出来事です。
しかし見方を変えれば、これまで曖昧だった見積り、原価、施工時間、仕入れ、集客方法を見直す機会でもあります。
今回は、みんなが塗料や材料の高騰を嘆いている間に、小さな塗装店が取り組むべき経営改善について解説します。
塗料の値上げを会社の努力だけで吸収してはいけない
材料費が上がったとき、多くの真面目な塗装店は、最初に自社で吸収しようとします。
「以前からのお客様だから、同じ金額でやってあげたい」
「元請けから仕事を切られたくない」
「相見積りで負けたくない」
このような思いから、見積価格を変えず、自社の利益を削って対応してしまうのです。
しかし、材料費が一時的に数%上がっただけなら、企業努力で吸収できる場合もあります。
一方で、塗料、副資材、燃料、人件費などが継続的に上昇する状況で、すべてを会社が負担すれば、いずれ限界が来ます。
最初に削られるのは会社の利益です。
次に、社長の給料が削られます。
その次には、職人の賃金、教育費、車両や道具の更新、安全対策、広告費などが削られていきます。
最終的には、工事品質や会社の継続性まで弱くなります。
適正な価格改定は、単なる値上げではありません。
良い職人を守り、良い施工を続け、お客様への責任を果たすために必要な経営判断なのです。
1.塗料の値上げ率ではなく「一現場の原価」を計算する
材料が10%値上がりしたから、見積価格も10%上げよう。
このような考え方では、正確な価格設定はできません。
なぜなら、外壁塗装の工事価格すべてが塗料代ではないからです。
塗装工事の原価には、次のような費用が含まれます。
- 塗料代
- シーリング材などの副資材費
- 養生材、刷毛、ローラーなどの消耗品費
- 職人の人件費
- 外注費
- 足場費
- 車両費、燃料費
- 廃材処分費
- 現場管理費
- 保証やアフターフォローに必要な費用
大切なのは、塗料メーカーの値上げ率だけを見るのではなく、
一つの現場を完成させるための総原価が、以前よりいくら増えたのか
を計算することです。
たとえば、以前は原価120万円で完成していた工事が、現在は128万円かかるのであれば、実際の原価上昇は8万円です。
この8万円を、どこまで販売価格に反映し、どこを施工効率の改善で吸収するのかを考えます。
原価が分からないまま値上げすると、価格を上げすぎて失注するか、上げ幅が足りずに赤字になるかのどちらかです。
まずは、最近完成した3現場からでも構いません。
見積原価ではなく、実際にかかった原価を調べることから始めましょう。
2.見積書の材料単価を定期的に更新する
塗料や材料が値上がりしているにもかかわらず、見積システムの単価が数年前のままになっている塗装店は少なくありません。
特に注意したいのは、過去に作成した見積書をコピーして使っている場合です。
塗料の仕入れ価格が変わっても、
- 下塗り材
- 上塗り材
- シーリング材
- 養生材
- 廃材処分
- 運搬費
- 職人の人工
などの単価が更新されていなければ、見積りを出すたびに利益が減っていきます。
材料価格が変動する時代には、少なくとも数カ月に一度、主要材料の仕入れ単価を確認する必要があります。
さらに、仕入れ価格だけでなく、
「一缶で実際に何平方メートル施工できているか」
「現場ごとに何缶余っているか」
「追加注文が何回発生しているか」
まで確認すると、より正確な原価が分かります。
カタログ上の塗布面積と、実際の現場で使う数量は必ずしも一致しません。
下地の状態、職人の塗り方、色、形状、吸い込みなどによって、使用量が変わるためです。
自社の実績に基づいた材料数量を見積りへ反映することが、利益を守る第一歩です。
3.見積りの有効期限を明確にする
材料価格が頻繁に変わる時代には、見積書の有効期限も重要です。
半年以上前に提出した見積金額で、そのまま契約してしまえば、見積作成時よりも材料費が上がっている可能性があります。
その差額をすべて塗装店が負担していては、利益が残りません。
見積書には、
「本見積書の有効期限は発行日より30日間です」
など、期限を明記しておきましょう。
また、契約から着工までの期間が長い場合には、
「材料価格の大幅な改定があった場合は、協議のうえ金額を見直すことがあります」
という考え方を、契約前に説明しておくことも大切です。
ただし、契約後になって突然追加費用を請求すれば、お客様とのトラブルにつながります。
値上げ時代だからこそ、見積時点で丁寧に説明し、双方が納得したうえで契約する必要があります。
4.一缶を安く買うより、余りと廃棄を減らす
材料価格が高くなると、多くの経営者は仕入れ先に値引きを求めます。
もちろん、仕入れ条件の交渉は必要です。
しかし、小さな塗装店では、一缶あたり数百円安く買うこと以上に、材料の余りや廃棄を減らすほうが利益改善につながる場合があります。
倉庫を確認すると、次のような材料が眠っていないでしょうか。
- 少量だけ残った塗料
- いつの現場で使ったか分からない材料
- 固まって使えなくなった塗料
- 色番号が記録されていない塗料
- 多めに発注して余った材料
- 使用期限が分からない副資材
材料の管理が曖昧な会社では、必要な材料が倉庫にあるにもかかわらず、再び同じものを購入してしまうこともあります。
現場ごとに、
- 発注した数量
- 使用した数量
- 余った数量
- 保管場所
- 色番号
- 使用期限
を記録するだけでも、無駄は減ります。
材料費高騰への対策とは、安く買うことだけではありません。
購入した材料を、最後まで価値に変える管理能力を高めることです。
5.現場ごとの人工管理を徹底する
塗装工事の原価を大きく左右するのは、材料費だけではありません。
それ以上に大きな影響を与えることがあるのが、施工時間と人工数です。
たとえば、同じ規模の外壁塗装でも、
- 予定より工期が2日延びた
- 材料が足りず、職人が買い出しに行った
- 翌日の段取りができていなかった
- 忘れ物で現場と会社を往復した
- 職人同士の作業分担が曖昧だった
- 手直しが発生した
ということが重なると、人件費原価が増えていきます。
一日8時間、480分のうち、5%は24分です。
一人あたり一日24分の無駄でも、職人4人であれば合計96分になります。
これが20日続けば、月間で32時間です。
材料費が上がったと嘆きながら、毎日何時間もの移動、待ち時間、探し物、手戻りが発生しているとすれば、先に改善すべきものがあります。
職人を急がせるという意味ではありません。
朝からすぐ作業に入れるように準備し、必要な材料と道具を揃え、午後には翌日の段取りまで考える。
このような基本の積み重ねが、原価を守ります。
6.工事品質を上げて「やり直し原価」を減らす
最も高い材料費は、使わなくてもよかった材料費です。
施工不良や確認不足によって、塗り直しや手直しが発生すれば、材料費だけでなく、人件費、車両費、管理時間まで再び必要になります。
しかも、手直し工事では売上が増えません。
利益だけが減っていきます。
塗装店が確認すべきなのは、単にクレーム件数だけではありません。
- 塗り残し
- 養生不良
- 色の確認不足
- 付帯部の施工範囲の認識違い
- 下地処理不足
- 写真の撮り忘れ
- 清掃不足
- お客様への説明不足
など、小さな手直しも記録することが大切です。
同じ手直しが何度も発生しているなら、職人個人の注意力だけの問題にせず、施工基準、チェック表、写真報告、朝礼など、仕組みで予防します。
材料価格が上がるほど、一度で正しく完成させる力の価値は高くなります。
7.安さだけで選ぶお客様を集めすぎない
材料価格が上がると、
「価格を上げたら問い合わせが減るのではないか」
と不安になります。
しかし、すべてのお客様を集める必要はありません。
必要なのは、自社の仕事、職人、施工品質、保証、地域での責任を理解してくれるお客様です。
価格だけを見て業者を選ぶお客様ばかり集めると、材料費が上がっても販売価格へ反映できません。
一方で、
- 誰が施工するのか
- どのような下地処理をするのか
- なぜこの塗料を使うのか
- 何回点検するのか
- 工事後に誰が対応するのか
を丁寧に伝えれば、価格以外の部分で判断してくれるお客様が増えていきます。
ホームページやチラシでも、「安い外壁塗装」を強調するだけでなく、
- 職人紹介
- 施工基準
- 現場写真
- お客様の声
- 失敗しない業者選び
- 工事後の保証と点検
- 地域で続けてきた理由
を伝えることが大切です。
材料価格が上がる時代には、安売り集客から、価値を理解してもらう集客へ転換する必要があります。
8.塗装工事だけで終わらない関係をつくる
新規のお客様を一件集めるためには、広告費、営業時間、現地調査、見積作成など、多くの費用と時間がかかります。
ところが、工事が終わったあと、お客様との関係が切れてしまう塗装店も少なくありません。
材料費や広告費が高くなる時代ほど、一度ご縁をいただいたお客様との関係が重要になります。
塗装工事の完了後も、
- 定期点検
- 雨漏り確認
- シーリングの状態確認
- 屋根の点検
- ベランダ防水
- 雨樋修理
- 小規模な住宅修繕
などを通して、長く住まいを見守ることができます。
これは、何でも売り込むという意味ではありません。
塗装工事を入口として、お客様の住まいを長期的に支える役割を持つということです。
新規集客だけに依存せず、既存のお客様から再び相談していただける会社になれば、広告費の上昇にも強くなります。
材料費の高騰は、経営力の差が表れる時代でもある
塗料や材料の高騰は、どの塗装店にも同じように起こります。
しかし、その影響はすべての会社で同じではありません。
原価を把握している会社。
見積単価を更新している会社。
施工時間を管理している会社。
材料の余りを減らしている会社。
手直しを仕組みで予防している会社。
価格以外の価値を伝えている会社。
既存のお客様との関係を大切にしている会社。
このような会社は、材料費が上がっても、すぐに経営が苦しくなるわけではありません。
反対に、売上だけを追い、原価も施工時間も確認していなかった会社は、材料価格の上昇によって、それまで見えなかった問題が一気に表面化します。
つまり、材料費の高騰が会社を悪くしたというより、もともとあった経営上の弱点が見えるようになったとも考えられます。
まずは直近3現場を振り返る
一度にすべてを変えようとする必要はありません。
まずは直近に完成した3現場について、次の項目を確認してください。
- 見積時の予定原価
- 実際の材料費
- 実際の人工数
- 予定工期と実際の工期
- 余った材料
- 追加購入した材料
- 手直しにかかった時間
- 現場別の粗利益
- 粗利益が予定より減った理由
3現場を比較すると、自社の問題が少しずつ見えてきます。
材料使用量が多いのか。
人工数が増えているのか。
追加工事を無償で行いすぎているのか。
見積単価が古いのか。
段取りに問題があるのか。
原因が分かれば、改善できます。
反対に、原因を確認せずに「材料が高いから利益が出ない」と結論づけてしまえば、価格が落ち着くまで何も変わりません。
まとめ|高騰を嘆く塗装店から、高騰を乗り越える塗装店へ
塗料や材料の高騰は、小さな塗装店にとって大きな負担です。
しかし、経営者が材料価格そのものを変えることはできません。
変えられるのは、自社の見積り、原価管理、施工方法、時間の使い方、仕入れ、集客、顧客との関係です。
みんなが値上げを嘆いている間に、
- 現場別原価を調べる
- 見積単価を更新する
- 見積りの有効期限を決める
- 材料の余りと廃棄を減らす
- 施工時間と人工数を管理する
- 手直しを減らす
- 価格以外の価値を伝える
- 既存のお客様との関係を深める
という基本に取り組む。
派手な方法ではありません。
しかし、この地味な改善を続けた塗装店が、価格高騰の時代にも職人を守り、お客様に良い工事を届け、地域で長く選ばれ続ける会社になっていきます。
材料が安かった時代の経営方法を守るのではなく、材料が高い時代にも成り立つ経営へ。
塗料・材料の高騰は、苦しい出来事であると同時に、自社の経営を一段強くする転換点でもあるのです。
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