発行・運営
日本建築塗装職人の会
地域の空き家問題に、建設の力をどう生かすか
空き家問題が語られるとき、話題の中心になるのは、所有者、相続、売却、行政制度などです。
どれも重要な課題です。
しかし、空き家は最終的には建物の問題でもあります。
その建物は、現在どのような状態なのか。
雨漏りや腐食は進んでいないか。
修繕すれば、もう一度使えるのか。
維持する場合、どのくらいの費用がかかるのか。
安全のために、解体すべき状態なのか。
これらを判断するには、建物を見られる人が必要です。
そこで力を発揮できるのが、地域の工務店、リフォーム店、塗装店などの建設事業者です。
ただし、工事の依頼を待っているだけでは、空き家問題には十分に関われません。
地域工事店は、「工事が決まったあとに施工する会社」から、「建物の状態を確認し、所有者が今後を判断できるようにする会社」へ役割を広げる必要があります。
空き家対策が進まない背景には、大きく三つの問題があります。
所有者が遠方に住んでいる場合、空き家を長期間見ていないことがあります。
外からは大きな問題がないように見えても、室内で雨漏りや湿気、設備の劣化が進んでいるかもしれません。
反対に、「古い家だから、もう使えないだろう」と思っていても、必要な部分を直せば活用できる場合もあります。
状態が分からなければ、管理、修繕、売却、賃貸、解体のどれを選ぶべきか判断できません。
空き家には、建物、相続、登記、家財、不動産、税金など、複数の問題が重なっています。
工事店へ相談すべきか。
不動産会社へ相談すべきか。
行政へ行けばよいのか。
所有者自身にも分かりません。
相談先が分散しているため、最初の一歩を踏み出せないのです。
管理する場合はいくらかかるのか。
直すなら、どこまで工事が必要なのか。
売却や賃貸が可能なのか。
解体後の土地をどうするのか。
必要な費用と、その先の選択肢が見えないため、結論を先延ばしにします。
空き家対策を進めるには、いきなり大きな工事を提案するのではなく、現在地と選択肢を見えるようにする入口が必要です。
地域工事店は、日々の仕事で住宅街を回っています。
施工中の現場だけでなく、その周囲にある建物も自然に目に入ります。
屋根材がずれている。
雨樋が外れかけている。
外壁の一部が道路へ落ちる可能性がある。
塀が傾いている。
樹木が建物や電線へ伸びている。
台風で破損した部分が、そのままになっている。
住民が気づかない危険でも、職人なら劣化の兆候から判断できることがあります。
もちろん、無断で敷地へ入ったり、不安をあおって営業したりしてはいけません。
しかし、地域の安全に関わる状態を見つけたとき、自治会、行政、近隣住民などを通じて、適切な確認につなげることはできます。
地域工事店は、問題が深刻になってから呼ばれるだけではなく、建物の小さな異変を早期に発見する役割を担えるのです。
空き家の所有者へ、最初から改修工事や解体工事を提案すると、警戒されることがあります。
売るための診断だと思われるからです。
そこで、工事とは切り離した「空き家診断」を入口にします。
確認する項目は、たとえば次のようなものです。
- 屋根、外壁、雨樋の状態
- 雨漏りや室内の湿気
- 基礎や主要部分の目視できる異常
- 窓、扉、防犯上の問題
- 給排水、電気、換気設備
- 庭木、雑草、排水、近隣への影響
- すぐ対応すべき危険
- 数年以内に検討すべき修繕
- 維持管理に必要な作業
診断結果は、写真と文章で分かるようにまとめます。
そして、建物の状態を次のように整理します。
- 緊急対応が必要な部分
- 現状維持のために必要な管理
- 活用する場合に必要な修繕
- 解体を含めて検討すべき問題
- 他の専門家へ相談すべき事項
所有者へ結論を押しつけるのではありません。
判断できる材料を渡すことが、最初の仕事です。
空き家対策というと、大規模改修か解体かという二択になりがちです。
しかし、所有者がすぐに将来を決められないこともあります。
その場合は、建物の劣化を抑える最低限の修繕を行い、選択肢を残す方法があります。
屋根や外壁の部分補修。
雨樋や排水の修理。
窓や扉の施錠。
換気や湿気対策。
庭木や雑草の管理。
害虫や小動物の侵入口をふさぐ。
何もしなければ、建物の状態は悪くなります。
一方、全面改修を急げば、所有者へ大きな負担を求めることになります。
現在の状態と予算に合わせて、小さく守る。
この中間的な選択肢を示せることが、地域工事店の強みです。
遠方に住む所有者にとって、空き家を定期的に確認することは大きな負担です。
そこで、地域工事店が定期管理を行うことが考えられます。
- 建物外部の目視確認
- 室内の換気
- 通水
- 郵便物の確認
- 雨漏りや設備異常の確認
- 台風や大雨後の臨時点検
- 写真付きの報告
- 必要な小修繕の提案
- 庭木や草刈り事業者との連携
月次、隔月、季節ごとなど、建物の状態や所有者の希望に合わせてサービスを設計します。
定期管理によって、所有者は遠方からでも状態を把握できます。
工事店側も、異常を早期に発見し、大規模な損傷を防げます。
一回限りの工事ではなく、建物を見守り続ける関係をつくる。
空き家管理は、住まいの主治医という役割を、無人の建物へ広げた事業だと言えます。
空き家を再生するとき、先に工事内容を決めてはいけません。
その建物を、誰が、何のために使うのかを決めることが先です。
住宅として貸すのか。
売却するのか。
移住者に使ってもらうのか。
店舗や事務所にするのか。
地域の交流拠点にするのか。
親族が将来住むのか。
目的によって、必要な性能も工事予算も変わります。
住宅として使うなら、安全性、断熱、給排水、生活動線が重要です。
店舗であれば、用途に応じた設備や法令への対応が必要です。
売却を目指すなら、購入希望者の需要と改修費のバランスを考えなければなりません。
地域工事店は、できる工事を並べるのではなく、利用目的に合った工事範囲を提案する必要があります。
建物の状態によっては、再生が適さない場合があります。
構造的な危険が大きい。
長期間の雨漏りや腐食が進んでいる。
改修費用に対して、活用の見込みが乏しい。
周囲の建物や道路へ危険を及ぼしている。
そのような建物を無理に残せば、所有者と地域へ負担を残します。
空き家活用を推進する立場であっても、解体という選択を避けてはいけません。
安全に解体し、使える材料をできる限り分別し、土地を次の用途へつなげる。
解体後の管理や活用まで考える。
それも建設の力です。
残すことだけが地域貢献ではありません。
危険を取り除き、次の利用へ土地を戻すことも、地域を守る大切な仕事です。
空き家活用では、不動産会社との連携が欠かせません。
工事店には建物の状態を判断する力があります。
不動産会社には、売買、賃貸、地域の需要、価格を判断する力があります。
どちらか一方だけでは、再生できるかを正しく判断できません。
工事店が「直せば使える」と考えても、借り手や買い手の需要がなければ、投資を回収できないかもしれません。
不動産会社が「売れる」と考えても、修繕費を正しく見積もらなければ、購入後に大きな問題が起きます。
建物診断と改修計画を工事店が担い、流通と活用の可能性を不動産会社が見る。
互いの専門性を持ち寄ることで、所有者へ現実的な選択肢を示せます。
空き家問題は、建物だけを直しても解決しない場合があります。
所有者が決まっていない。
相続人同士の意見がまとまらない。
登記が整理されていない。
室内に多くの家財が残っている。
高齢の所有者が施設へ入居している。
利用できる制度が分からない。
工事店が法律や福祉の専門家になる必要はありません。
必要な人へつなぐことができればよいのです。
司法書士、税理士、弁護士。
不動産会社。
片付けや遺品整理の事業者。
地域包括支援センター。
自治体の空き家相談窓口。
移住や創業を支援する団体。
相談内容に応じて、適切な専門家へつなぐ。
その連携先を日頃からつくっておけば、工事店は所有者にとって信頼できる最初の相談窓口になれます。
一社ですべてを抱えるのではなく、地域ごとに小さな相談チームをつくる方法があります。
たとえば、
- 工事店:建物診断、管理、修繕、解体
- 不動産会社:売却、賃貸、活用需要
- 専門士業:相続、登記、税務、契約
- 片付け事業者:家財整理、残置物対応
- 行政・地域団体:制度案内、所有者との接点
- 金融機関:改修資金、事業計画
- 福祉関係者:高齢所有者や家族への支援
という役割分担です。
大きな組織を新設しなくても構いません。
相談が入ったとき、誰へつなぐかが決まっているだけでも前進します。
定期的に事例を共有すれば、地域特有の問題や需要も見えてきます。
建設会社が中心になるとは、すべてを自社で受注することではありません。
建物の状態から課題を整理し、必要な専門家へ橋を架けることです。
空き家問題へ取り組むことは、社会貢献であると同時に、地域工事店の新しい事業にもなります。
考えられるサービスには、次のようなものがあります。
- 空き家の現況調査
- 写真付き診断報告書
- 定期巡回と管理
- 台風・豪雨後の臨時点検
- 防犯・安全対策
- 小修繕
- 活用前の改修計画
- 中古住宅の再生工事
- 店舗、事務所、社宅への用途変更
- 解体と解体後の土地管理
- 再生後の定期点検
これらを単発で売るのではなく、
診断
↓
管理
↓
活用計画
↓
修繕または解体
↓
継続点検
という一連のサービスとして設計できます。
仕事を待つ経営から、地域の建物を継続的に見守る経営へ変わる可能性があります。
空き家対策は、公益性の高い仕事です。
しかし、地域のためだからといって、無償や採算度外視で取り組めば続きません。
現地へ移動する時間。
調査する職人の技術。
報告書を作成する時間。
定期管理の人員。
専門家との調整。
事故に備える保険や安全管理。
すべてに費用がかかります。
サービスの内容と責任範囲を明確にし、適正な対価をいただく。
そこから利益を残し、人材育成や管理体制へ再投資する。
それによって、十年後も地域の空き家へ対応できる会社でいられます。
社会課題を事業にすることは、問題を利用して儲けることではありません。
利益を残すことで、解決する力を持続させることです。
空き家事業を始めるために、いきなり地域中の空き家を探す必要はありません。
まず、これまで工事をしたお客様へ聞いてみることができます。
遠方に、相続した実家はありませんか。
ご両親の家の管理で困っていませんか。
現在住んでいる家を、将来どうするか考えていますか。
空き家になっている建物の点検先は決まっていますか。
すでに信頼関係のあるお客様から始めれば、不安をあおる営業にはなりません。
住宅工事の顧客情報に、将来の住まい方や実家の相談も記録しておく。
定期点検の際に、家族の住宅についても話を聞く。
一軒の工事から、一家族が所有する複数の建物を見守る関係へ広げることができます。
空き家問題へ建設の力を生かすというと、改修工事を増やす話に聞こえるかもしれません。
しかし、本当の役割はそれだけではありません。
危険を早く見つける。
建物の状態を正しく伝える。
所有者が選べるようにする。
必要な部分だけを直す。
使える建物を再生する。
残せない建物は安全に解体する。
専門外の課題を、適切な人へつなぐ。
その後も建物や土地を見守る。
建設の力とは、すべてを工事へ変える力ではありません。
建物の現実を見極め、最も良い次の一手をつくる力です。
地域工事店が工事を待つ側から、地域の建物を発見し、診断し、管理し、活用へつなぐ側へ変わる。
それによって、空き家問題の解決と、地域工事店の新しい経営を両立できます。
社会課題を解決する仕事は、善意だけでは続きません。
地域に必要なサービスとして事業化するからこそ、人を雇い、職人を育て、長く地域を守り続けられるのです。
工事店経営の支援に20年以上携わり、これまで700社を超える経営に向き合ってきました。経営、職人育成、建築業界、地域社会の現場で見えてきたことを、親方社長へ向けて発信します。
会社は変わる。
読んで終わりではなく、自社の経営で一つずつ実践する。地域に選ばれ、次の世代へ残る会社づくりを、さらに深く学べます。



