発行・運営
日本建築塗装職人の会
小さな会社にも、社会を変える力がある

社会を変えるのは、政治家や行政、大企業だ。
自分たちのような小さな会社には、目の前の仕事をこなし、社員と家族を守るだけで精いっぱいだ。
そのように考える経営者は、少なくないと思います。
確かに、一つの小さな会社だけで、人口減少、高齢化、空き家、災害、環境問題などを解決することはできません。
しかし、社会問題は、私たちの日常から遠く離れた場所にだけ存在しているわけではありません。
働く場所がない。
若者が地域を離れる。
職人が育たない。
高齢者が住まいのことで困っている。
空き家が放置される。
災害が起きても、直せる人がいない。
その一つひとつは、地域の現場で起きています。
そして、その現場に最も近い場所で働いているのが、小さな会社です。
小さな会社は、社会を一度に変えることはできません。
しかし、本業を通して、自分たちが引き受けられる一つの問題を解決することはできます。
社員を一人雇うことは、会社にとって大きな責任です。
給与だけでなく、教育、社会保険、道具、安全、将来まで考えなければなりません。
小さな会社にとって、一人の採用は簡単なことではありません。
しかし、その一人の雇用によって、一つの生活が支えられます。
安定した所得があれば、家族と暮らし、子どもを育て、地域で買い物をすることができます。
地元で働く場所があれば、若者は生まれ育った地域を離れずに済むかもしれません。
技術を身につければ、年齢を重ねても地域で必要とされる人になれます。
大企業のように、何百人も採用できなくてもよいのです。
全国にある小さな会社が、それぞれ一人を雇い、育て、守れば、社会全体では大きな力になります。
職人を育てるには時間がかかります。
材料や道具の扱い方を教える。
安全と品質の基準を伝える。
お客様や近隣への接し方を教える。
失敗を振り返り、少しずつ仕事を任せる。
すぐに利益へ結びつくとは限りません。
それでも職人を育てるのは、その技術が地域の未来に必要だからです。
一人の職人が育てば、何十軒、何百軒という住まいを守れます。
災害時には、被害を受けた建物を確認し、応急対応できます。
さらに、その人が次の若者を育てれば、技術は一代で終わりません。
職人育成は、会社の人手不足を解決するだけの施策ではありません。
地域に、建物を守れる人を残す社会的な仕事です。
外壁を塗る。
屋根を直す。
雨漏りを止める。
手すりを取り付ける。
工事一件だけを見れば、小さな仕事に見えるかもしれません。
しかし、その家には人が暮らしています。
雨漏りが止まれば、家族は安心して眠れます。
傷んだ外装を直せば、建物を長く使えます。
手すりを取り付ければ、高齢者が転倒する危険を減らせます。
断熱性を高めれば、暑さや寒さによる生活の負担を軽くできます。
職人が直しているのは、屋根や壁だけではありません。
その建物の中にある暮らしです。
一軒の住まいを守ることは、一つの家庭と、その地域で暮らし続ける未来を守ることでもあります。
地域工事店は、毎日、住宅街や地域の中を動いています。
傷み始めた住宅。
危険な状態の空き家。
台風後の屋根や雨樋の異常。
住まいの管理が難しくなった高齢者。
小さな変化へ、行政や大企業より早く気づくことがあります。
すべてを自社で解決する必要はありません。
専門外の課題は、行政、福祉、不動産、他の専門家へつなげればよいのです。
大切なのは、
「うちの工事ではないから関係ない」
と通り過ぎないことです。
小さな会社には、大きな制度をつくる力はなくても、小さな異変を見つけ、必要な人へつなぐ力があります。
空き家が放置されると、建物の劣化だけでなく、防災、防犯、景観、近隣関係にも影響します。
この問題に対して、地域工事店ができることがあります。
建物の状態を診断する。
遠方の所有者に代わって定期管理する。
小さな修繕によって、将来の選択肢を残す。
再利用できる建物は、住まい、店舗、仕事場として再生する。
危険な建物は、安全に解体する。
不動産会社や行政、専門家へつなぐ。
これは善意の奉仕だけではありません。
適正な対価をいただき、事業として継続できます。
地域課題を解決する仕事が、会社の新しい収益と雇用を生む。
そこに、社会貢献と経営を両立させる道があります。
災害が起きると、地域の職人が必要になります。
屋根の応急処置。
雨漏りの確認。
危険な外壁や塀の点検。
壊れた設備や建物の復旧。
しかし、災害が起きてから急に職人を増やすことはできません。
平時から会社を存続させ、人を雇い、技術を育てておく必要があります。
日頃は小さな修繕や定期点検を行っている会社が、非常時には地域を立て直す力になります。
会社が適正な利益を残すことは、社長だけが豊かになるためではありません。
いざというときに動ける人材、車両、道具、信用を維持するためでもあります。
社会の役に立とうとすると、利益を求めてはいけないように感じる人がいます。
反対に、経営は利益をつくるものだから、社会問題は行政や慈善活動へ任せればよいと考える人もいます。
しかし、利益と社会貢献は、本来、対立するものではありません。
利益のない活動は、長く続けられません。
社員へ給与を支払えず、人を育てられず、会社がなくなれば、地域への貢献も終わります。
一方、利益だけを目的にし、お客様や社員、地域を犠牲にすれば、会社は信用を失います。
地域の困り事を、本業によって解決する。
その価値に対して適正な対価をいただく。
利益を、人材、技術、品質、次の社会課題へ再投資する。
この循環が、持続可能な社会貢献です。
理念を掲げる会社は多くあります。
地域に貢献する。
お客様を幸せにする。
職人を育てる。
住まいを守る。
どれほど立派な理念でも、日々の仕事と数字につながらなければ実現できません。
職人を育てるなら、教育時間と給与を支えられる利益が必要です。
地域の小さな修繕へ対応するなら、出張や点検を継続できる仕組みが必要です。
良い材料と工法を守るなら、適正な価格を説明し、いただく必要があります。
理念のために利益を犠牲にするのではありません。
理念を実現し続けるために、売上と利益を追求するのです。
売上は会社の目的ではありません。
守るべきものを守り、実現したい社会へ近づくための力です。
小さな会社には、大企業のような資本や人員はありません。
一方で、小さいからこその強みがあります。
経営者がお客様の顔を知っている。
社員一人ひとりの成長を見られる。
地域の変化へ早く気づける。
必要と判断すれば、すぐ行動できる。
一軒、一人、一つの問題へ、深く関われる。
社会問題は、常に大規模な制度だけで解決するわけではありません。
制度からこぼれ落ちる小さな困り事へ、顔の見える関係で対応する力が必要です。
それを担えるのが、地域の小さな会社です。
地域清掃、寄付、ボランティアも大切な社会貢献です。
しかし、社会を変える仕事は、特別な日に行う活動だけではありません。
今日、一人の社員へ丁寧に技術を教える。
一軒の住宅を手抜きせずに仕上げる。
必要のない工事は、必要ないと伝える。
高齢のお客様の小さな相談に耳を傾ける。
廃棄物を減らし、使える建物や材料を長く生かす。
会社を次の世代へ渡せるように整える。
そのすべてが、社会を少しずつ良くする経営です。
社会課題は、経営の外にあるものではありません。
日々の仕事の中にあります。
一社だけの取り組みは、小さく見えます。
一人の職人を育てても、業界全体の人手不足は解決しない。
一軒の空き家を再生しても、全国の空き家はなくならない。
一軒の住宅を点検しても、すべての災害被害は防げない。
しかし、全国の地域工事店が、それぞれの地域で一人、一軒、一つの課題を引き受けたらどうでしょうか。
一人の職人育成が、全国で積み重なる。
一軒の住宅保全が、全国で積み重なる。
一つの空き家再生が、全国で積み重なる。
一社の事業承継が、全国で積み重なる。
その力は、決して小さくありません。
社会を変えるとは、一人の偉大な人物が一度にすべてを変えることだけではありません。
多くの人が、自分の持ち場で責任を引き受けることです。
小さな会社が、すべての社会問題へ取り組む必要はありません。
自社の技術、経験、地域との関係を生かし、引き受けられる問題を一つ決めればよいのです。
職人を育てる。
高齢者の住まいを見守る。
空き家を管理する。
災害後の点検体制をつくる。
住宅を長く使えるようにする。
地域の雇用を守る。
会社を次世代へ引き継ぐ。
その一つを、本業として続けられる仕組みにする。
理念を、商品とサービスへ変える。
サービスを、売上と利益へつなげる。
利益を、人と地域の未来へ戻す。
そこまで行って、理念は社会を動かす力になります。
小さな会社だから、社会を変えられないのではありません。
小さな会社だからこそ、目の前の一人、一軒、一つの問題へ、深く向き合うことができます。
社会を一度に変える必要はありません。
まず、自分の会社が引き受けられる一つの問題から始める。
その小さな実践が、地域の未来を変え、やがて日本の未来を変える力になるのです。
工事店経営の支援に20年以上携わり、これまで700社を超える経営に向き合ってきました。経営、職人育成、建築業界、地域社会の現場で見えてきたことを、親方社長へ向けて発信します。
会社は変わる。
読んで終わりではなく、自社の経営で一つずつ実践する。地域に選ばれ、次の世代へ残る会社づくりを、さらに深く学べます。



