職人不足は、本当に若者だけの問題なのか

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日本建築塗装職人の会

職人と業界のこれから

職人不足は、本当に若者だけの問題なのか

「最近の若い人は、職人になりたがらない」

建設業の経営者やベテラン職人から、よく聞く言葉です。

求人を出しても応募がない。
採用しても、なかなか続かない。
少し厳しく教えると辞めてしまう。
技術を覚えても、すぐ独立してしまう。

長い時間をかけて技術を身につけてきた親方ほど、今の若者に物足りなさを感じることがあるでしょう。

しかし、職人不足は、本当に若者だけの問題なのでしょうか。

若者が変わったことは事実です。

同時に、社会も、家庭も、働くことへの価値観も変わりました。

その中で、建設業界の側は、若者から選ばれる仕事へ変わる努力を、十分にしてきたでしょうか。

職人にならない若者を責める前に、私たち自身が、職人として生きていく魅力と未来を示せているのかを問い直す必要があります。

若者は、職人の仕事をどこで知るのか

職人の仕事には、多くの魅力があります。

自分の手で、目に見えるものを残せる。
技術を身につけるほど、仕事の質が高まる。
お客様から直接、感謝の言葉をいただける。
建物を守り、地域の暮らしを支えられる。
経験を重ねても、さらに奥深さを追求できる。

実際に職人として働いている人であれば、この仕事の価値を知っています。

しかし、これから仕事を選ぶ若者には、その魅力が見えていません。

若者が建設業へ抱く印象は、しばしば次のようなものです。

仕事がきつい。
休みが少ない。
見て覚えなければならない。
怒鳴られることがある。
給与や将来が分かりにくい。
年齢を重ねたあとの働き方が見えない。

この印象を、「現実を知らない若者の思い込み」と片づけることは簡単です。

しかし、業界の魅力を伝えてこなかったのも、私たちです。

職人がどのように技術を身につけ、どのように成長し、どのような誇りを持って働いているのか。

会社に入って一年後、三年後、十年後に、どのような姿を目指せるのか。

その未来を言葉と姿で見せなければ、若者に選んでもらうことはできません。

「技術は見て盗め」では、育てたことにならない

かつての職人の世界では、「技術は見て盗むものだ」と言われてきました。

先輩の動きを観察し、言われなくても考え、失敗しながら覚える。

その中で、見る力、考える力、粘り強さが養われたことも事実でしょう。

だからといって、その教え方だけを、今の若者へそのまま引き継げばよいとは限りません。

見て覚えるためには、何を見るべきなのかを理解している必要があります。

初心者には、先輩の何が優れているのかさえ分かりません。

材料の扱い方。
道具の角度。
下地の見極め。
作業の順序。
安全への配慮。
お客様や近隣への気遣い。

熟練者が無意識に行っている判断を言葉にしなければ、若手は表面だけをまねることになります。

教えないことを、修業と呼んではいけません。

一方で、すべてを手取り足取り教え、本人に考えさせないことも教育ではありません。

最初は基準と理由を教える。
実際にやらせてみる。
できた点と改善点を具体的に伝える。
慣れてきたら、自分で考える範囲を広げる。

教えることと、考えさせることを段階的に組み合わせる必要があります。

職人不足の時代には、昔のように「残った人だけが職人になればよい」という育て方を続ける余裕はありません。

縁あって入社した一人を、会社の責任で職人へ育てる。その覚悟が必要です。

厳しさと、理不尽さは違う

良い仕事をするためには、厳しさも必要です。

安全を軽視する。
時間や約束を守らない。
同じ注意を何度も繰り返す。
お客様の住まいを雑に扱う。

このような行動まで、優しく見過ごしてよいわけではありません。

職人は、人の大切な財産である住まいを預かります。

ときには高所で作業し、道具や材料も扱います。小さな気の緩みが、大きな事故や損害につながることもあります。

だから、守るべき基準は明確にしなければなりません。

ただし、仕事への厳しさと、人に対する理不尽さは違います。

気分によって叱り方が変わる。
皆の前で人格を否定する。
質問すると「そんなことも分からないのか」と笑う。
説明せずに「常識だ」と片づける。
昔の苦労を、次の世代にもそのまま経験させる。

これらは教育ではありません。

良い仕事を求める厳しさには、理由と基準があります。

理不尽さには、教える側の感情しかありません。

若者が厳しさに耐えられなくなったのではなく、意味の説明されない理不尽さを受け入れなくなったとも考えられます。

仕事の基準は下げず、教える側の人間性を高める。

それが、これからの職人教育です。

給与だけでなく、将来が見えない

職人を採用するとき、給与は重要です。

生活できる賃金を支払い、休日、勤務時間、社会保険、安全環境を整えることは、会社の基本的な責任です。

「技術を教えてやっているのだから、最初は安くて当然」という考え方だけでは、若者にも、その家族にも選ばれません。

しかし、初任給を上げるだけで職人不足が解決するわけではありません。

若者が見ているのは、入社時の条件だけではないからです。

三年後には、何ができるようになるのか。
どのような基準で評価されるのか。
技術が上がれば、給与も上がるのか。
結婚し、家族を持っても働き続けられるのか。
年齢を重ねたら、どのような役割を担えるのか。

この道筋が見えなければ、本人は職人として人生を築いていく決断ができません。

会社側は「頑張れば一人前になれる」と言います。

しかし、その一人前が何を意味するのか、いつ到達できるのか、その先にどのような生活があるのかが曖昧な会社は少なくありません。

職人の成長を、技術項目、役割、評価、待遇と結びつけて見えるようにする。

未来を約束するのではなく、未来へ進む道を示すことが必要です。

独立だけを成功とする業界文化

建設業では昔から、

「仕事を覚えたら、一度は自分でやってみろ」
「一人前になったら独立するものだ」
「いつまでも人に使われていてはいけない」

という言葉が語られてきました。

独立し、自分の力で会社をつくることは、立派な道です。

志と経営力を持ち、自ら責任を負って地域に必要とされる会社をつくる人もいます。

しかし、職人としての成功を独立だけに限定すると、別の問題が起きます。

会社が時間をかけて育てた優秀な職人から、組織を離れていく。

独立した本人も、営業、資金繰り、見積もり、顧客対応、採用、労務管理に追われ、好きだった職人仕事へ集中できなくなることがあります。

すべての優秀な職人が、経営者になりたいわけではありません。

技術を極めたい人。
若手を育てたい人。
現場をまとめたい人。
お客様との関係を大切にしたい人。
安定した生活を守りながら、誇りを持って働きたい人。

それぞれに違う人生があります。

社員として働き続けることを、独立できなかった人の道にしてはいけません。

会社に残るからこそ、大きな仕事に挑戦できる。

仲間と技術を高め合える。

収入と生活を安定させながら、職人としての責任と誇りを持てる。

そのような道を、会社側がつくらなければなりません。

「代表親方」と「社員親方」という新しい姿

私は、親方には一つの形しかないとは考えていません。

会社を経営し、組織全体の責任を負う人は、代表親方です。

一方、社員という立場でありながら、一つの現場を任され、後輩を育て、お客様への責任を持つ人もまた、親方と呼ぶにふさわしい存在です。

それが、社員親方です。

社員親方は、単に作業が上手な職人ではありません。

現場全体を見る。
安全と品質を守る。
仲間の力を引き出す。
若手へ技術と仕事観を伝える。
お客様へ分かる言葉で説明する。
会社の理念を現場で実践する。

会社の看板を背負い、自分の仕事だけでなく、周囲と次の世代にも責任を持つ職人です。

経営者になることだけが親方ではありません。

組織の中でも、責任、誇り、権限、待遇を備えた親方になれる。

この姿を示せれば、職人の将来は大きく広がります。

代表親方がすべての現場を抱える会社から、複数の社員親方がそれぞれの現場と人材を育てる会社へ変わる。

それが、小さな工事店が組織として技術を残す道になるのではないでしょうか。

年齢を重ねても働ける職人像をつくる

若者が職人の道を選ぶとき、現在の若手だけを見ているわけではありません。

五十代、六十代の職人が、どのように働いているかも見ています。

体力が落ちたら働けない。
けがをしたら収入を失う。
現場に出られなくなれば、役割がない。

そのように見える業界では、若者は職人を生涯の仕事として選びにくくなります。

年齢や経験に応じて、役割を広げる必要があります。

施工技術を極める。
現場管理を担う。
若手を教育する。
品質検査を担当する。
住宅診断や見積もりを行う。
お客様のアフターサービスを担う。

体力だけに頼らず、蓄積した経験と判断力を生かせる仕事をつくる。

ベテランが誇りを持って働く姿は、若者にとって最も説得力のある求人広告になります。

若者を迎える前に、今いる職人を大切にする

若い人を採用したいと考える会社は、まず現在働いている社員を見なければなりません。

今いる職人は、適正に評価されているでしょうか。

長年身につけた技術が、給与や役割に反映されているでしょうか。

後輩を教える時間と責任が、正式な仕事として認められているでしょうか。

社長から感謝や期待を伝えられているでしょうか。

既存の社員が疲弊し、会社への不満を抱えている状態で、新しい人だけを大切に見せても長続きしません。

新入社員は、社長の言葉より、先輩社員の表情を見ています。

「この会社で十年働いた先に、あの人のようになりたい」

そう思える先輩がいる会社には、未来が見えます。

今いる職人を大切にし、その技術と人生を尊重することが、次の職人を迎える準備になります。

職人不足は、人数だけの問題ではない

職人不足というと、足りない人数をどう補うかという話になりがちです。

求人広告を増やす。
初任給を上げる。
外国人材を受け入れる。
省力化設備やデジタル技術を導入する。

いずれも必要な施策です。

しかし、人を補充するだけでは、根本的な問題は解決しません。

入社した人が育たない。
育った人が残らない。
優秀になれば独立してしまう。
ベテランの技術が継承されない。
社長がすべての現場を管理し続ける。

この構造を変えなければ、採用を繰り返しても不足は続きます。

職人不足とは、単に職人の数が少ないという問題ではありません。

職人を迎え、育て、長く活躍してもらい、技術を次へ渡す仕組みが不足している問題です。

若者を責める前に、未来を見せる

若者に、忍耐力や責任感が必要ないわけではありません。

仕事には、思うようにいかないこともあります。

技術は短期間では身につきません。

暑い日も寒い日もあり、自分の都合だけでは進められない現場もあります。

その現実は、正直に伝えるべきです。

ただし、厳しさだけを伝えて、未来を見せなければ、人は来ません。

この仕事を続けることで、どのような技術が身につくのか。

誰の暮らしを守れるのか。

会社の中で、どのような親方を目指せるのか。

家族を守りながら、生涯働けるのか。

技術を次の世代へ伝える立場になれるのか。

その未来を、言葉、制度、待遇、そして今働いている職人の姿で示す必要があります。

若者が職人にならないのではありません。

私たちが、職人になる意味と、職人として生きる未来を、十分に見せてこなかったのかもしれません。

職人不足を、若者の問題だけにしない。

会社と業界が自らを変え、職人が生涯誇りを持って働ける道をつくる。

そこから、次の時代の職人育成が始まるのだと思います。

発行人・日本建築塗装職人の会 会長
青木 忠史

地域で真面目に働く小さな会社や職人が、正当に評価され、次の世代へ残っていく社会をつくりたい。

工事店経営の支援に20年以上携わり、これまで700社を超える経営に向き合ってきました。経営、職人育成、建築業界、地域社会の現場で見えてきたことを、親方社長へ向けて発信します。

経営指導20年以上支援実績700社超『百年企業の作り方』著者社会文化功労賞
LEARN AND ACT
気づいた親方から、
会社は変わる。

読んで終わりではなく、自社の経営で一つずつ実践する。地域に選ばれ、次の世代へ残る会社づくりを、さらに深く学べます。

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