発行・運営
日本建築塗装職人の会
謝れる会社に、仕事が集まる

どれほど丁寧に仕事をしていても、間違いや行き違いが起きることはあります。
工事には、人が関わります。
現場の状態は一軒ごとに違い、天候にも左右されます。社内の担当者、職人、協力業者、材料業者など、多くの人が連携しながら仕事を進めます。
連絡が正しく伝わらない。
施工方法について認識が食い違う。
予定していた工程が遅れる。
養生や清掃が行き届かない。
完成後に不具合が見つかる。
もちろん、問題を起こさないための努力は必要です。
しかし、あらゆる失敗を完全になくすことはできません。
だからこそ、お客様が本当に見ているのは、問題が起きたかどうかだけではありません。
問題が起きたとき、その会社がどのように向き合ったかを見ています。
間違いのない会社よりも、間違いを認め、逃げずに正す会社のほうが、最後には信頼されることがあります。
小さな不具合であれば、早く対応することで解決できる場合があります。
ところが、会社側が責任を認めようとしなければ、問題は大きくなります。
「うちの施工が原因とは限りません」
「職人には、そのように伝えてあります」
「以前から傷んでいたのではないですか」
「通常であれば問題のない範囲です」
「そこまでは見積もりに入っていません」
会社側にも事情や言い分はあるでしょう。
事実を確認せず、すべて自社の責任として受け入れる必要もありません。
しかし、お客様が困っている最初の段階から自社を守る言葉ばかり並べれば、お客様はこう感じます。
「この会社は、問題を解決することより、自分たちの責任を逃れることを優先している」
そうなると、施工上の小さな問題が、会社の姿勢に対する大きな不信へ変わります。
お客様の怒りは、不具合そのものだけから生まれるのではありません。
話を聞いてもらえなかった。
気持ちを軽く扱われた。
責任を押しつけられた。
連絡を待たされた。
言い訳をされた。
こうした対応によって、怒りはさらに強くなります。
失敗よりも、そのあとの態度が信用を失わせるのです。
会社の謝罪力は、社員教育だけではつくれません。
社長自身が、日頃からどのように間違いへ向き合っているかによって決まります。
社長が自分の判断ミスを認めない会社では、社員も失敗を報告しにくくなります。
報告すれば強く叱られる。
責任を一人で負わされる。
皆の前で恥をかかされる。
評価や給与へ影響する。
そう感じれば、社員はできるだけ問題を小さく見せようとします。
「大したことではありません」
「たぶん大丈夫です」
「お客様からは何も言われていません」
そして、発見が遅れた問題ほど、対応に多くの時間と費用がかかるようになります。
反対に、社長が自分の誤りを認められる会社では、社員も早く報告できます。
「自分の確認が足りなかった」
「指示の出し方が曖昧だった」
「この判断は私が間違っていた」
社長がそう言えると、社員は、失敗を隠すことより、早く会社へ知らせて解決することを選べます。
謝れる社長は、弱い社長ではありません。
会社の事実を正しく見られる社長です。
工事で問題が起きたとき、すぐに謝ってよいのか迷うことがあります。
原因がまだ分からない段階で謝罪すれば、自社の責任を全面的に認めたことになるのではないか。
相手の要求が広がるのではないか。
その心配から、事実が確定するまで何も言わず、対応が遅れてしまう会社もあります。
ここで大切なのは、「ご不便やご心配をおかけしていることへのお詫び」と「原因や責任の確定」を分けることです。
たとえば、次のように伝えることはできます。
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。まず現場を確認し、原因と対応方法を○日までにご説明いたします」
これは、調査前にすべての責任を認める言葉ではありません。
お客様が困っている事実を受け止め、会社として逃げずに確認する姿勢を示す言葉です。
謝罪とは、相手の要求を無条件ですべて受け入れることではありません。
相手へ生じた不安や不便を受け止め、事実を確認し、果たすべき責任から逃げないことです。
ただ「すみません」と言うだけでは、問題は解決しません。
信頼を回復するためには、次の五つの段階が必要です。
まず、お客様の話を最後まで聞きます。
いつ、どこで、どのような問題が起きたのか。
誰が、どのような説明をしたのか。
お客様が現在、何に困っているのか。
この段階では、途中で反論したり、原因を決めつけたりしません。
現場を確認し、写真、契約内容、施工記録、担当者の話などを照合します。
正しい対応は、正しい事実確認から始まります。
自社の対応によって不便や不安を与えた部分について、率直にお詫びします。
「そのような意味ではなかった」
「担当者は悪気がなかった」
「通常は問題にならない」
こうした説明を先にすると、言い訳に聞こえてしまいます。
まず相手の立場に立ち、困らせた事実を受け止める。
説明は、そのあとです。
確認できた事実を、専門用語に頼らず、分かる言葉で説明します。
自社に不利な内容であっても、隠してはいけません。
一方で、分からないことを推測で断定することも避けます。
「現時点で分かっていること」と「これから確認すること」を分けて伝えることが重要です。
いつ、誰が、どのような方法で直すのかを明確にします。
工事のやり直しだけでなく、清掃、再説明、近隣対応、スケジュール調整など、お客様の不安を取り除くために必要なことを考えます。
約束した期日を守り、完了後にはお客様と一緒に確認します。
一件の対応を終えただけでは、会社としての改善にはなりません。
なぜ連絡が漏れたのか。
なぜ確認できなかったのか。
なぜ担当者だけの判断になったのか。
施工基準や記録方法に問題はなかったか。
人を責めるだけで終わらせず、同じ失敗が起きにくい仕組みへ変えます。
失敗を会社の学びに変えてこそ、謝罪が本当の意味を持ちます。
問題の連絡を受けたとき、その場で解決できないことはあります。
現場確認が必要な場合も、メーカーや協力業者との調整が必要な場合もあるでしょう。
しかし、解決できないことと、返事をしないことは別です。
「確認して、明日の午後までにご連絡します」
この一言があるだけで、お客様の不安は違います。
最も良くないのは、答えが決まるまで連絡しないことです。
会社側は「まだ回答できない」と考えていますが、お客様には「放置されている」と見えます。
時間がかかるなら、その理由と次の連絡日を伝える。
約束した日までに結論が出なければ、現在の進捗を伝え、次の期限を示す。
問題対応では、結論だけでなく、その途中の連絡も信用の一部です。
お客様へ原因を説明することは必要です。
しかし、説明の順序を誤ると、言い訳になります。
「雨が続いたので」
「協力業者の手配が遅れて」
「担当者が休んでいて」
「メーカーから回答が来なかったので」
いずれも事実かもしれません。
けれども、それを最初に伝えれば、「自分たちは悪くない」と言っているように聞こえます。
言い訳は、自分の責任を小さくするために事情を話します。
説明は、相手が状況を理解し、今後を判断できるように事実を話します。
同じ内容でも、目的と順序が違います。
まず、お客様へ迷惑や不安を与えたことを受け止める。
そのうえで原因を説明し、会社として何をするのかを示す。
事情を伝えるだけで終わらず、責任ある行動まで続けることが大切です。
同じ問題が繰り返される会社では、謝罪が形だけになっています。
問題が起きる。
担当者が謝る。
その場で手直しする。
また別の現場で、同じことが起きる。
これでは、お客様から見れば、「謝ることに慣れた会社」にすぎません。
謝れる会社とは、謝罪の言葉が上手な会社ではありません。
失敗を記録し、原因を共有し、仕事のやり方を変えられる会社です。
たとえば、
- 契約時の約束を記録する欄を設ける
- 着工前確認を複数人で行う
- 工程ごとの施工写真を残す
- 完了検査の基準を統一する
- お客様への報告時期を決める
- 問題事例を社内会議で共有する
このような小さな改善を積み重ねれば、一つの失敗が会社全体の品質向上につながります。
失敗の責任者を探すだけでは、人は萎縮します。
失敗が起きた構造を見つけ、次の現場を良くする。
それが経営者の仕事です。
問題が起きた以上、何もなかった状態へ完全に戻すことはできません。
だからといって、信頼を回復できないとは限りません。
問題が発生したとき、すぐに駆けつけた。
都合の悪いことも正直に説明した。
最後まで責任を持って直した。
工事後も状態を確認しに来た。
社内の改善内容まで報告した。
このような対応を受けたお客様は、会社の本当の姿を知ります。
順調な工事の中では見えなかった、責任感や誠実さが伝わるからです。
「問題はあったけれど、あの会社は逃げなかった」
その経験が、以前より深い信頼につながることさえあります。
もちろん、問題を起こせばよいという意味ではありません。
問題を防ぐ努力をしたうえで、それでも起きてしまったときに、会社の真価が問われるということです。
地域工事店の信用は、広告だけではつくれません。
都合の悪い場面で、どのような行動を取ったか。その積み重ねによってつくられます。
社員にだけ「間違えたら素直に謝りなさい」と教えても、社長自身が謝れなければ、その言葉は伝わりません。
社員への指示を間違えたとき。
お客様との約束を忘れたとき。
感情的な言い方をしてしまったとき。
社員の意見を聞かずに判断したとき。
社長が「自分が間違っていた。申し訳なかった」と言えるかどうか。
その姿を、社員は見ています。
社長が謝ると威厳を失う、と考える人もいます。
実際には、その反対です。
誤りを隠し、立場の力で押し通す社長は、一時的に従わせることはできても、心から信頼されることはありません。
自分の責任を引き受けられる社長は、社員から信頼されます。
そして、社員同士でも責任を押しつけ合わず、問題を早く共有できる会社になります。
謝罪は、一人の人格だけの問題ではありません。
会社の安全、品質、教育、信用を支える経営文化なのです。
お客様は、完璧な会社だけを探しているわけではありません。
自分たちの住まいを大切に扱い、何かあったときに逃げず、最後まで責任を持ってくれる会社を探しています。
間違いを隠さない。
相手の話を最後まで聞く。
言い訳より先に、困らせたことを詫びる。
事実を説明し、必要な対応を行う。
同じことを繰り返さないよう、会社を変える。
この一連の姿勢が、信用をつくります。
謝れる会社とは、弱い会社ではありません。
自社の現実を直視し、責任を引き受け、失敗から学ぶことのできる強い会社です。
失敗しないことだけを求めれば、人は失敗を隠します。
失敗に誠実に向き合うことを求めれば、会社は失敗から成長できます。
信頼とは、一度も間違えないことではありません。
間違えたときに、逃げないこと。
そして、謝ったあとに、昨日より良い会社になっていることなのです。
工事店経営の支援に20年以上携わり、これまで700社を超える経営に向き合ってきました。経営、職人育成、建築業界、地域社会の現場で見えてきたことを、親方社長へ向けて発信します。
会社は変わる。
読んで終わりではなく、自社の経営で一つずつ実践する。地域に選ばれ、次の世代へ残る会社づくりを、さらに深く学べます。






