「忙しい会社は良い会社」という深い読み違い

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日本建築塗装職人の会

小さな会社の経営

「忙しい会社は良い会社」という深い読み違い

「おかげさまで、毎日忙しくさせてもらっています」

経営者同士で近況を聞かれたとき、このように答える親方は多いものです。

朝早くから現場へ向かい、昼間はお客様や職人からの電話に追われ、夕方から見積書をつくる。帰宅してからも、翌日の段取りが頭から離れない。

予定表は数か月先まで埋まり、社員も職人も休む間もなく動いている。

仕事が途切れないのですから、ありがたいことではあります。

忙しいことを、繁盛している証拠だと受け取るのも自然でしょう。

しかし、ここに一つの深い読み違いがあります。

忙しい会社が、必ずしも良い会社とは限りません。

忙しさの中には、会社が成長しているから生まれる忙しさもあれば、経営上の問題から生まれる忙しさもあるからです。

大切なのは、忙しいかどうかではありません。

その忙しさが、会社を良くしているのか。それとも、会社の力を少しずつ奪っているのかを見分けることです。

忙しさは、経営の状態を表す数字ではない

仕事が多ければ、売上も利益も増えているように感じます。

ところが実際には、忙しく働いているのに利益が残らない会社があります。

工事は次々と入っているのに、資金繰りが苦しい。
社員は残業しているのに、仕事が終わらない。
社長は誰よりも働いているのに、会社が自分なしでは回らない。
お客様は多いのに、紹介や再依頼が増えない。

この状態を「繁盛」と呼んでよいのでしょうか。

忙しさは、仕事の量を感じさせてはくれます。

しかし、その仕事が適正な利益を生んでいるか、社員を成長させているか、お客様からの信頼を積み重ねているかまでは教えてくれません。

むしろ、毎日が忙しすぎると、経営者は立ち止まって数字や組織を見る時間を失います。

そして、問題があるから忙しいのに、「忙しいのだから順調なのだ」と思い込んでしまいます。

忙しさは、ときに経営の問題を隠す幕になるのです。

良い忙しさと、危険な忙しさがある

会社が成長するとき、一時的に忙しくなることはあります。

新しい社員が入った。
大きな仕事を受注した。
新しい事業を始めた。
繁忙期を迎えた。

このように、目的と期間が明確で、その忙しさを乗り越えた先に、会社の成長や働き方の改善があるのであれば、それは「良い忙しさ」と言えるでしょう。

一方で、毎年、毎月、いつも同じ理由で忙しい場合は注意が必要です。

見積もりが遅れている。
段取りが直前まで決まらない。
材料の不足で何度も現場へ行く。
社長の判断を待たなければ誰も動けない。
手直しや連絡漏れが繰り返される。
採算の低い仕事を数で補っている。

こうした忙しさは、成長の証拠ではありません。

仕組みの不足や判断の遅れ、低採算、属人化から生まれている「危険な忙しさ」です。

良い忙しさは、いずれ会社を強くします。

危険な忙しさは、続けるほど人と会社を疲れさせます。

会社を忙しくする七つの原因

毎日の仕事を注意深く見ると、忙しさを生み出している原因が見えてきます。

一.採算の低い仕事を、量で補っている

一件当たりの利益が少なければ、会社を維持するために多くの現場をこなさなければなりません。

仕事は途切れませんが、現場数が増えるほど、移動、打ち合わせ、発注、請求、管理も増えていきます。

忙しさの原因が仕事不足ではなく、適正な利益をいただけていないことにある場合も少なくありません。

二.段取りが直前まで決まらない

工程、担当者、材料、車両、現場情報が早めに整理されていなければ、毎朝のように確認と変更が発生します。

社員は指示を待ち、社長は電話で調整し、必要な材料を取りに戻る。

仕事そのものではなく、仕事を始めるための準備に多くの時間を使ってしまいます。

段取りの不足は、全員の時間を少しずつ奪います。

三.同じ情報を何度も探している

現場写真は誰の携帯電話にあるのか。
契約時の約束はどこへ記録したのか。
材料の色番号は何だったのか。
お客様への連絡は誰が行ったのか。

情報の保存場所や記録方法が決まっていなければ、同じ確認が何度も必要になります。

小さな探し物でも、全社で毎日繰り返せば、大きな時間になります。

四.仕事が社長へ集中している

見積もり、受注判断、現場の相談、お客様対応、社員への指示、協力業者の手配。

何をするにも社長の確認が必要な会社では、社員は判断できず、社長のところに仕事が集まります。

社長は「自分がやったほうが早い」と考えます。

確かに、その一回だけを見れば早いでしょう。

しかし、何年たっても社長が同じ仕事を続けていれば、社員は育たず、社長の仕事も減りません。

社長が忙しすぎる会社は、社長が優秀だからというだけでなく、仕事を渡せていない会社でもあるのです。

五.手直しと二度手間が多い

説明不足、確認漏れ、施工基準の違いによって、やり直しが生まれます。

最初に十分な確認をする時間を惜しんだ結果、その何倍もの時間を手直しに使うことになります。

しかも手直しは、時間と原価だけでなく、お客様からの信用と社員の意欲も失わせます。

やり直しで生まれた忙しさを、仕事が多いからだと考えてはいけません。

六.すべてのお客様へ同じ対応をしている

会社の考え方や施工品質ではなく、価格だけで比較するお客様。

対応範囲外の細かな依頼を繰り返すお客様。

自社が力を発揮できる工事と、そうでない工事。

すべてを断らず、すべてに同じように応えようとすれば、会社の時間は分散します。

誰に、どのような価値を提供する会社なのかを決めることも、時間を守る経営です。

七.立ち止まって改善する時間がない

忙しい会社ほど、「今は改善している場合ではない」と考えます。

しかし、改善しないから、来月も同じことで忙しくなります。

工程表を整える。
見積書のひな型をつくる。
施工写真の保存方法を決める。
社員へ仕事を教える。
会議で問題の原因を話し合う。

その時間を確保しなければ、忙しさは永遠に続きます。

時間ができたら改善するのではありません。

改善する時間を先に取るから、将来の時間が生まれるのです。

社長が忙しい会社では、社員が育ちにくい

毎日忙しく働く社長は、社員から見れば頼りになる存在です。

難しい現場に対応し、お客様からの苦情を収め、見積書をつくり、判断に迷う社員へ答えを出す。

しかし、社長がすべてを引き受け続けると、社員は自分で考えなくなります。

何かあれば社長に聞く。
失敗しそうなら社長へ任せる。
判断するより、指示を待つ。

その結果、社長の仕事はますます増えます。

社長が忙しいから教える時間がない。
教えないから社員ができるようにならない。
社員ができないから社長が引き取る。
社長が引き取るから、さらに忙しくなる。

こうして、忙しさが社員の成長を止め、社員が育たないことが社長をさらに忙しくする循環が生まれます。

人を育てるには、最初は時間がかかります。

自分でやれば一時間で終わることを、説明し、やらせ、確認すれば二時間かかるかもしれません。

けれども、その時間は損失ではありません。

将来、社長が本来の仕事へ時間を使うための投資です。

忙しさを誇る文化が、助けを求めにくくする

建設業には、忙しさを頑張っている証拠として語る文化があります。

「休む暇がない」
「昨日も夜中まで見積もりをしていた」
「自分たちの若い頃は、もっと働いた」

このような言葉が評価される会社では、社員も「疲れた」「仕事が回らない」と言い出せなくなります。

助けを求めれば、能力が低いと思われる。

休みを取れば、やる気がないと思われる。

その結果、社員は問題を抱え込んだまま働き、ある日突然、退職を申し出ます。

社長からすれば、「何も言わずに急に辞めた」と見えるでしょう。

しかし本人は、ずっと前から小さな合図を出していたのかもしれません。

長時間働ける人を強い人と考えるのではなく、限られた時間で良い仕事を続けられる状態をつくる。

忙しさに耐えられる人を探すのではなく、忙しさそのものを改善する。

それが、これからの工事店に必要な考え方です。

良い会社を測る三つの視点

会社の状態を見るとき、「仕事があるか」だけで判断してはいけません。

少なくとも、次の三つの視点を持つ必要があります。

一.適正な利益が残っているか

一件ごとの売上だけではなく、材料費、外注費、人工、管理費を含めて、必要な利益が残っているか。

仕事量を増やさなければ成り立たない価格になっていないかを確認します。

二.時間を適切に使えているか

社長や社員は、価値を生む仕事へ時間を使えているか。

探し物、待ち時間、やり直し、移動、連絡漏れへの対応が増えていないか。

「何時間働いたか」ではなく、「何のために時間を使ったか」を見る必要があります。

三.信用が積み重なっているか

工事を終えたお客様から、再び相談していただけているか。

家族や近所の方へ紹介していただけているか。

一つの工事が終わるたびに、会社の信用が増えているか。

仕事をこなすだけで関係が終わっているなら、忙しくても会社の資産は増えていません。

「暇をつくること」は、怠けることではない

親方の中には、予定表に空白があると不安になる方がいます。

仕事を詰め込み、社員を常に動かしていなければ、損をしているように感じます。

しかし、会社には余白が必要です。

社員を教える時間。
現場を振り返る時間。
お客様を訪問する時間。
道具と車両を整える時間。
新しい技術を学ぶ時間。
家族と過ごし、心身を休める時間。
会社の未来を考える時間。

これらは、工事をしている時間ほど売上へ直接現れません。

けれども、会社の品質と将来をつくる大切な時間です。

予定の空白をすべて仕事で埋める会社は、目の前の売上はつくれても、未来をつくる時間を失います。

暇をつくれる会社とは、仕事がない会社ではありません。

緊急時に動ける余力があり、人を育て、仕組みを改善し、次の時代を考える時間を持てる会社です。

良い会社とは、大切なことへ時間を使える会社

忙しさそのものを、悪いものと考える必要はありません。

お客様から必要とされ、仲間と力を合わせて仕事をする喜びもあります。

会社の成長期には、懸命に働かなければならない時期もあるでしょう。

ただし、忙しさを経営の勲章にしてはいけません。

仕事が多いことより、良い仕事ができているか。
長く働いたことより、大切な成果を生み出せたか。
社長が頑張っていることより、社員が育っているか。
予定が埋まっていることより、利益と信用が残っているか。

問い直すべきなのは、忙しいかどうかではありません。

その時間が、お客様、社員、会社の未来へつながっているかどうかです。

良い会社とは、ただ忙しい会社ではありません。

目の前の仕事を丁寧に行いながら、人を育て、仕組みを整え、お客様との関係を深め、未来を考える時間を持てる会社です。

忙しさから抜け出すことは、仕事を減らすことではありません。

無駄な仕事を減らし、本当に大切な仕事へ、会社の時間と力を戻すことなのです。

発行人・日本建築塗装職人の会 会長
青木 忠史

地域で真面目に働く小さな会社や職人が、正当に評価され、次の世代へ残っていく社会をつくりたい。

工事店経営の支援に20年以上携わり、これまで700社を超える経営に向き合ってきました。経営、職人育成、建築業界、地域社会の現場で見えてきたことを、親方社長へ向けて発信します。

経営指導20年以上支援実績700社超『百年企業の作り方』著者社会文化功労賞
LEARN AND ACT
気づいた親方から、
会社は変わる。

読んで終わりではなく、自社の経営で一つずつ実践する。地域に選ばれ、次の世代へ残る会社づくりを、さらに深く学べます。

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